お金のことを、ひとりで抱え込まないために
お子さんが就労継続支援B型事業所に通い始めたとき、
親御さんの心の中には、期待と同時にこんな不安が浮かぶことが多いのではないでしょうか。
「お金の管理、大丈夫かな」
「将来、親がいなくなったあと、この子はどうなるんだろう」
「今は私が見ていられるけれど、このままでいいのかな」
金銭管理の悩みは、とても現実的で、そしてとても切実です。
それは決して心配しすぎでも、過保護でもありません。
わが子の人生を大切に思っているからこそ出てくる、自然な気持ちです。
B型に通い始めて見えてくる「お金の不安」
B型事業所に通うようになると、工賃や年金など、お子さん自身が「自分のお金」を持つ場面が増えてきます。
その一方で、こんな困りごとが見えてくることもあります。
- お金が入ると、計画なく使ってしまう
- 支払いの仕組みがよく分からない
- 通帳やキャッシュカードの管理が不安
- 「分からない」と言えず、そのままにしてしまう
親御さんとしては、
「教えているつもりなのに」「何度言っても分からない」
そんなもどかしさを感じることもあるかもしれません。
でも、これは努力不足や育て方の問題ではありません。
見通しを立てること、判断すること自体が難しい特性から起こることなのです。
金銭管理の支援は「自立をあきらめること」ではありません
「お金を管理してもらったら、自立できなくなるのでは…」
そう感じる親御さんは、とても多いです。
けれど実際には、
金銭管理の不安が減ることで、生活も就労も安定する
というケースを、私たちは多く見てきました。
- 必要な支払いができている安心
- 使っていいお金が分かっている安心
- 困ったときに相談できる先がある安心
この「安心」があるからこそ、
B型での仕事や人との関わりに、前向きに取り組めるようになります。
神戸市の「こうべ安心サポート」という選択肢
神戸市には、判断に不安のある方の地域生活を支える
**「こうべ安心サポート(日常生活自立支援事業)」**があります。
この制度は、神戸市社会福祉協議会が中心となって行っているもので、
成年後見制度とは異なり、日常生活に寄り添った支援が特徴です。
- 本人の気持ちを大切にする
- できることは本人に任せる
- 難しいところだけ一緒に支える
「全部お任せ」ではなく、
一緒に考えながら進める支援だと考えていただくと分かりやすいと思います。
こうべ安心サポートでできること(例)
地域や状況によって異なりますが、例えば次のような支援があります。
- 通帳や印鑑など大切な物の保管
- 毎月の生活費の管理や受け渡しの支援
- 家賃・光熱費・携帯料金などの支払い確認
- 福祉サービス利用に関する手続きの支援
「通帳を預けるのが不安…」という場合、
無理に預ける必要はありません。
支援内容は、本人と話し合いながら決めていきます。
成年後見制度との違いに悩んだときは
「後見制度を使うべき?」と悩まれる方も多いですが、
いきなり決める必要はありません。
- 日常の金銭管理に不安がある段階
→ こうべ安心サポート - 契約や財産管理まで必要になった段階
→ 成年後見制度
というように、段階的に考えることができます。
B型事業所とご家族の役割
B型事業所やご家族が直接お金を管理するのではなく、
- 困りごとを一緒に整理する
- 本人の気持ちを確認する
- 専門機関につなぐ
という「つなぐ役割」を担うことで、
長い目で見て安全で安心な支援につながります。
最後に:親御さんへ
金銭管理の不安は、
「今の困りごと」だけでなく、「将来への心配」でもあります。
でも、すべてを今決める必要はありません。また、ひとりで背負う必要もありません。
- 相談していい
- 迷っていい
- 準備として知っておくだけでもいい
就労継続支援B型と地域の制度を上手につなぎながら、
お子さんが安心して働き、暮らし続けられる未来を、
少しずつ一緒に整えていけたらと思います。
参考
- こうべ安心サポート(神戸市社会福祉協議会)
- 兵庫県 日常生活自立支援事業(兵庫県社会福祉協議会)
保護者の方からよくあるご質問(Q&A)
こうべ安心サポートについて
Q1.こうべ安心サポートは、誰でも利用できますか?
A.「判断に不安がある方」で、地域での生活に支援が必要な場合に利用できます。
神戸市の**こうべ安心サポート(日常生活自立支援事業)**は、
知的障がい・精神障がい・認知症などにより、
- 金銭管理に不安がある
- 契約や手続きの理解がむずかしい
- 一人で生活することに不安がある
といった状況がある方を対象としています。
年齢や障害者手帳の有無だけで判断されるものではなく、
**「今の生活で支援が必要かどうか」**を丁寧に確認した上で利用が検討されます。
就労継続支援B型を利用している方も、もちろん対象になります。
Q2.家族が代わりに申し込むことはできますか?
A.はい、可能です。ご本人・ご家族・事業所のいずれからでも相談できます。
実際には、
- 保護者からの相談
- B型事業所職員からの相談
- 相談支援専門員からの相談
など、さまざまな入口があります。
ただし、利用にあたっては
必ずご本人の意思確認が行われます。
「本人抜きで勝手に決められる」ということはありませんので、安心してください。
Q3.利用するのに費用はかかりますか?
A.はい、少額の利用料がかかります(収入に応じて異なります)。
こうべ安心サポートは福祉サービスですが、
完全無料ではありません。
- 利用料は月額数百円〜数千円程度が一般的
- 生活保護受給中の方は減免・免除となる場合あり
- 具体的な金額は収入状況により決定
「お金の管理が不安だから使いたいのに、費用が心配」という声もありますが、
無理のない範囲になるよう配慮される仕組みがあります。
詳細は相談時に必ず説明してもらえます。
Q4.通帳や印鑑を預けるのが不安です…
A.その不安はとても自然なものです。無理に預ける必要はありません。
安心サポートでは、
- 通帳・印鑑を預かる
- 預からず、支払い確認だけ行う
など、支援内容を本人と一緒に決めます。
「全部預けないといけない」ということはありません。
不安な場合は、
- まずは相談のみ
- 支援内容を限定してスタート
といった段階的な利用も可能です。
Q5.成年後見制度とどう違うのですか?
A.簡単に言うと「日常生活の支援」か「法律的な代理」かの違いです。
- こうべ安心サポート
日常の金銭管理・手続きの支援が中心
本人の意思を尊重し、柔軟に対応 - 成年後見制度
契約や財産管理を法律的に代理
家庭裁判所の手続きが必要
「すぐ後見制度を使うべきか迷っている」という場合、
まず安心サポートに相談することで、適切な制度選択につながるケースが多くあります。
Q6.相談から利用開始までの流れを教えてください
A.大まかな流れは次のとおりです。
1.相談(電話・窓口)
→ 保護者・本人・B型事業所など、誰からでも可
2.面談・状況確認
→ 生活状況・困りごと・本人の希望を確認
3.支援内容の検討
→ どこまで支援するかを一緒に整理
4.契約・利用開始
→ 内容に納得したうえでスタート
「相談=即利用」ではありません。
まず話を聞いてもらうだけでも大丈夫です。
Q7.B型事業所はどこまで関わるべきですか?
A.金銭管理を直接行うのではなく、「つなぐ役割」が大切です。
B型事業所が、
- 通帳や現金を預かる
- 支払いを代行する
ことは、原則として避けたほうが安全です。
その代わりに、
- 困りごとを整理する
- 本人・家族と一緒に相談先を考える
- 安心サポートにつなぐ
という橋渡し役を担うことが、長期的に安心な支援につながります。
最後に(保護者の方へ)
金銭管理の悩みは、
「今は何とかできている」状態でも、環境が変わると表面化しやすいものです。
- 一人で抱え込まなくてよい
- 早めに相談してよい
- 支援は“将来の安心への準備”
就労継続支援B型と地域の制度をうまくつなぎながら、
その人らしい生活を長く続けていくための選択肢として、
こうべ安心サポートを知っておいていただければと思います。
